現実からの逃避旅行記

現実逃避の物語。

第5話 「ハッピーバレンタイン」

それは3ヶ月前のお話。

そう。
バレンタイン。
「ヨヅキさん。どうぞ」
コトメちゃんがチョコをくれました。
「いやぁ、毎年ありがとね」
「いえ、恒例ですしお世話になっているので」
それでも嬉しいのが独り身の真理です。
「はい。ツキミも」
ツキミも大喜びです。
そんなこんなでコトメちゃんはジム内のポケモン達にチョコを配り始めます。
「女の子って大変だねぇ」
「男も大変ですよ…」
ワシオくんがいつもより遅れて出勤してきました。
「あれ?ワシオくん今日は遅かったね?」
「あのチョコの試作品を片っ端から味見させられて体調が優れないんです…その上、俺の分までしっかり作ってるから」
「あはははは、コトメちゃんらしいね」
ワシオくんはコトメちゃんと同棲して居ます。
つまりそういう関係です。
くそ!リア充め!!!

 

OP「絵画教室」

ASIAN KUNG-FU GENERATION

 

午前中の業務が終わり昼休憩です。
「いらっしゃい!おー!兄ちゃんじゃねぇか!」
御飯処『トキマサ』。
毎度のごとく大将の元気な声が響きます。
「こんにちは。いつもので」
「あいよ!」
この店には僕のお気に入りの場所があります。
それは入って3番目のカウンター席。
決して広いとは言えない店内で、この席に座ると、食事中の殆どの人の会話が聞こえてくるのです。
いい話もよくない話も。
これは僕にとってとても重要な事なのです。
「日替わりC定食おまち」
女将さんが持ってきてくれました。
女将さんはホールを担当して居ます。
「ありがとうございます。今日も賑わってますね」
「誰かさんが来てからこの町はうんと平和になったからね」
いたずらに笑う女将さん。
少し照れます…
「あれ?今日はデザートあるんですか?」
いつものお盆にいつもとは違う小包が一つ。
こじんまりと主張していました。
話を逸らすこともできて一石二鳥!
「今日はバレンタインだろ?ヨヅキちゃんが来ると思って用意しといたんだよ」
なんと…女将さん…
女神様…
「ありがとうございます!」
「それじゃ、ごゆっくり」
女将さんは軽く会釈をして奥へ戻ります。
ああ、なんか今とても幸せな気持ちになったなぁ。
なんて思ってると、ものすごく至近距離からものすごい視線を感じます。
「やらんぞ」
「当たり前でしょう…」
大将の嫉妬でした。
「そりゃそうか!俺なんて昨日その100倍は母ちゃんにもらったからな!」
自慢げに話す大将。
これは…ワシオくんパターンだ…
この店での食事はいつも平和です。
大将のつくる料理はどれも美味しいし、世間話なんかで盛り上がることもできて、女将さんが美人。
あっという間に時間が過ぎ、あっという間にご飯がなくなってしまいます。
「ごちそうさまでしたー」
「おう!またよろしくな!」
お会計を済まして店を出ます。
この引き戸の音がまた心地いい。
などと思って居るとアンコロが包みを咥えて飛んで来ました。
「おや、今日は手紙じゃないんだね」
包みにはメモ用紙が挟んでありました。
『義理!』
「マヒルだな…こうも義理を推されると嬉しさ半減だよね」
アンコロは「?」という様子。
「ありがとね」
とポケ豆を渡すと「わかってんじゃねぇか」とでもいうようにポケ豆を頬張り、飛んでいきました。
そんなこんなして居るとそろそろ昼休憩も終わりの時間です。
ジムに戻ると来客がありました。
「ヨヅキちゃん!もー、待ってたんだよ?」
イナリのばっちゃんです。
「こんにちは。どうされたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ!今日はバレンタインだろ!?」
いつになくテンションが高い…
これは嫌な予感がするぞ…
「あんたのために縁談の話を持って来たのよ!」
予想通り…
てか、バレンタイン関係ない…
「いや、その件に関しては…」
「今日という今日は逃さないよ!ちゃんと写真も持って来たんだ!」
ああ…逃げられない…
ここはとにかく話を逸らさねば…
「ワシオくー」
声をかけようとすると、彼は露骨に目をそらしやがりました。
こうなれば…
「コトメちゃー」
「あら、美人な方ですね」
お前もそっちの味方カァァァ!!!
「いいでしょ!?ヨヅキちゃんにぴったりだと思って!」
ぴったりだと思ってじゃないよ!
僕はちゃんと恋愛したいんだよ!!
という心の声は虚しく消えて、この後3時間売り込まれました。
とほほ…
なんとかイナリのばっちゃんを躱すと、コトメちゃんが声をかけて来ました。
「ほんと、そろそろ考えてくださいね。いい歳なんだから」
「そういうのは本人に言っちゃダメなんだよ?デリケートな話題なんだから」
「ほら、第一候補がお見えですよ?」
そう言って指を指すコトメちゃん。
その先には見るに麗しい女性が立っていました。
「あれ?なんで?」
ヒルちゃんでした。
彼女はズカズカと僕に近づいて、目の前に謎の大袋を叩きつけました。
「こ、これは…?」
「お兄が貰ってたチョコ。消化しきれないから食べて」
袋を開けると大量のチョコ、チョコ!チョコ!
「はぁ!?」
「お兄は今ジム戦だから私が代わりに持ってきた」
このむすっとした感じから察するに今戦ってる挑戦者も女の子なんだな…
「だからって…僕でもこの量を消費できるわけないだろ…」
「毎年コトメちゃんからの義理チョコしか貰えないんだから感謝しなさい」
「は!?違うし!他にももらえるし!」
「行きつけの店の女将さん?」
ぐ…
「イナリのおばあさま?町の人からの『義理』でしょ?」
ぐぬぬ
「とにかく、これ置いてくから食べてね」
そう言って去ろうとするマヒルちゃん。
「またんかーい!!!!!」
待ってくれませんでした。
と、先ほど僕を裏切ったワシオくんがニヤニヤしながら近づいてきました。
「お、今年もいっぱいもらえましたね!さっすがジムリーダー!」
「お前…よーそんなこと言えたな…」
「え?ジョウト弁?」
「さっき裏切ったやろ?」
「や!そんなつもりは…」
僕の中で積もり積もった何かがはちきれる音がしました。
「やべっ…」
ワシオくんは全力疾走。
「またんかコラ!!!!」
それを追うため僕も全力疾走。
「はぁ、毎年このくだりやって何が楽しいのやら…」
とため息をつくコトメちゃん。
それに同調するツキミ達。
僕だって楽しいわけじゃないんだよぉ!!!!
バレンタイン楽しみたい…

 

ED「メランコリニスタ」

YUKI