現実からの逃避旅行記

現実逃避の物語。

ジムリーダーの日常 第7話 「黒兎狼」

壱:黒兎狼

ボクは目を醒ました。
そこには少年がいた。
「お母さん!目ぇ覚ました!」
「あら、ほんまや。イーブイにちゃんと挨拶した?」
誰だ?
なにを話してる?
ここはなんだ?
「おはようさん。これからよろしくな!『ツキミ』」

ボクが目を醒ました時、目の前には少年がいた。
少年は『お母さん』と呼ばれる女の人を呼んだ。
ボクは何が何だかわからなかった。
ただ一つ、
ーこの少年と生涯を共にするー
という感覚だけが強く刻まれていた。
少年と時間を共にすることで少しずつわかって来たのは、どうやらボクは彼らと同じ生き物ではないのだということ。そして、それでもボクらは『家族』なのだという事。
この家には少年の他に『お母さん』『お父さん』という人間がいて、それぞれが『ポケモン』と呼ばれる生物を連れている。
ボクはこの少年の『ポケモン』なのだろう。
彼はボクを『ツキミ』と呼んだ。
それがボクの名前だ。
この名前に意味があるのかどうかはわからない。ただ、なんとなくー自分を肯定されているー感じがしてボクはその名前を好きになった。
「ツキミ。ご飯やで」
『ツキミ』という言葉以外は理解ができない。
だが、
「こら、飛び跳ねんといて!」
そう言って笑う彼がボクは大好きだった。
「ツキミはほんまにご飯好きやな」
「“おや”に似るって言うのはほんまやな」
「ぼくこんなにはしゃいでないもん!」
そして、そんな彼が愛する家族もまた、ボクの愛する存在になっていった。
ボクらは何をするにも一緒だった。
寝る時も、ご飯を食べる時も、バトルの練習がしたくて夜中に裏口からこっそり出たり、いたずらしてお母さんに怒られたり。
何をするにも暖かい、ここに居ることがとても幸せだった。

ある日、知らない男が訪ねて来た。
その男はスラっとしたスーツを着ていて腰が低かった。
「ですから、そこをどうにか」
「そう言われましても、無理なもんは無理なんです。お引き取りください」
男は何かを欲しがっている様子だった。
そして、その低姿勢とは反面的に
「ツキミ、どうしたん?そんな威嚇して」
明らかな敵意の匂い。
この男はこの場所を壊す危険性がある。
それからというもの男は毎日顔を出した。
その都度お父さんやお母さんが追い返していたが、男はめげなかった。
「お願いしますよ。旦那」
「帰ってくれ」
来る日も
「旦那!今日こそはあなたのー」
「何言われても渡さんもんは渡さん」
来る日も
「旦那ー」
「ええ加減にしろ!無理なもんは無理や!警察呼ぶぞ!」
ついにお父さんが大声を張り上げた。
温厚なお父さんからは想像のつかない程の怒声。空間が凍りついた。
「はぁ…わかりました。諦めます」
深くため息をついて肩を落とす男の口からその言葉が溢れた時、家に安堵が流れた。
しかし、殺意。
男はモンスターボールから『ジュペッタ』を繰り出しお父さんを襲った。
「わたしもあまり野蛮なでは使いたくなかったのですが…あなたたちが悪いんですよ?素直に渡していればいいものを」
家中に充満する殺意の匂い。
リビングから玄関を覗いていた少年はその異臭に当てられたのか身動きすら取れなくなっていた。
「くっそ…逃げろ!」
お父さんは『オドシシ』と『ケンタロス』を繰り出し、それぞれにお母さんとボクらを逃す様指示した。
オドシシケンタロスは指示に従いボクらを連れて外に出た。
「自分より家族ですか…呑気な人たちだ」
「お前に何がわかんねん!」
「よほど死にたい様ですね…」
裏口を出てすぐ、お父さんの悲鳴が聞こえた。
ポケモン達はその声を聞いて、止まった。
主人の悲痛な叫びと指示を天秤にかけた結果、ボクたちを物置に押し込めた。
彼らなりにボクらを匿ったのだ。
そして、主人を助けるべく家に戻った。
家の中が騒がしくなった。
物が壊れる音、ポケモンの悲鳴、お父さんの悲鳴。
少年には痛すぎるほどの音が襲ってくる。
ついには、その喧騒に耐えかねたお母さんが動いた。
「絶対に出て来たあかんよ。何があっても」
お母さんはそういうと家に戻った。
ボクらは暗い物置の隙間から外の様子を伺った。
しばらく喧騒は続き、お母さんの悲鳴を最後に消えた。
いやに静かだったのを覚えている。
そこには何の音もなかった。
もしくは、ボクらが耳を塞いでいたのかもしれない。それほどの静寂。
そして、それは一瞬にして切り裂かれる。
男が裏口から出てきたのだ。
「あのクソ夫婦め、わたしを誰だと思ってやがる…」
その手には見たことのない『壺』が握られていた。
「ふふ…ふはは…ふははははは!これで、これでわたしの計画は完遂する!!フーパが、目覚める!!」
その瞬間、物置の扉が開いた。
何故開いたのか、理由を知るのに時間は必要なかった。
裏口の奥で床に這いつくばるお母さんの姿が見えたのだ。
少年は何よりも助けることを優先した。
少年は走った。そんな彼をボクは追いかけた。
「おや、そんなところに居たんですか…」
悪寒がした。
男が不敵に笑って居た。
その意味はすぐに知ることになる。
ボクらが家に入ったと同時に裏口が炎上し始めたのだ。
その上、ボクらは体の自由を奪われて居た。
“かなしばり”だ。
血まみれの床に横たわるお父さんとお母さん。
かろうじて息のあるお母さんは恐怖する少年を見て言った。
「い…き、て」
声にならない声。
胸が張り裂けそうな程の“何か”が込み上げてくる。
悲しみでも、寂しさでも、憎しみでも、怒りでもない。言葉にならない感情だった。
愛する者が目の前で果てる様を何もできずに見せつけられる。
声を上げて泣くことも、こぼれ落ちる涙を拭くことも許されない。
その内に、火はボクらを取り囲んだ。
いつしかお父さんの姿すら見えない。
爆炎の中でボクらはただ立っている。
虚無。
虚無。虚無。虚無。虚無。
苦しい。
空気が熱い。
薄れゆく意識の中で、一つの声が聞こえた気がした。
「くっそ、遅かったか…死ぬなよ。生きててくれ」
敵意はない。
あの男のものでもない。
なぜか安堵が押し寄せた。

そして、気付いた時にはボクらは森の中にいた。
なぜ森にいたのか?なぜ野生のポケモンに襲われていなかったか?なぜ生きているのか?
疑問はたくさんあった。
しかし、その疑問は消えて間もない焚き火が物語っていた。
誰とも知らない人に拾われた命。
少年は言葉を絞り出した。
「生きよう。生きよう…生き…」
彼の頬を涙伝う。
ボクは彼の頬を舐めた。
「こ、こら、くすぐったい」
彼は笑ってみせた。
不安にさせないように。
心が凍て付かないように。
自らの悲しみを心の奥に閉じ込めて。
それが痛かった。

ボクらは生きることを選んだ。
その為に手段は選ばなかった。というより、選べなかった。
生きるために物を盗み、生きるために戦った。
街では嫌われ、森では野生ポケモンに襲われる。
それでも彼は笑っていた。
そんな日々の中でボクは進化した。
満月の夜だった。
「また随分似合うやんか」
少年の笑顔が好きだ。
あの優しい笑顔が好きだ。
だからせめて、二度と彼にあんな思いをさせない為に。生きよう。
それがボクにできる唯一のこと。
闇を優しく照らすこの月のように。
ボクはそう誓った。

ジムリーダーの日常 第6話「ジムバトル!」

砂煙が晴れていく。

ギリギリで立つツキミ。
その向かいにはオノノクスが雄々しく立っている。
明らかな体格差。ボクの頬を汗が伝う。
ワシオくんはその状況を見て手を振り上げた。
「勝者!」
今日はジム戦です!

OP「絵画教室」
ASIAN KUNG-FU GENERATION

毎度のごとく朝の掃除を終え、デスクで一休み…なんてのはなく、整理しないといけない書類とにらめっこ。
町の行事の企画書に目を通し、予算を協会への報告書にしたかと思えば、町の問題調査書に報告されているものに優先順位をつけ、順に見回り。
その間にポケモンセンターからの事件報告や警察との情報交換なんてのもあったりで意外に忙しい…
それらが終わるのがちょうどお昼時。
トキマサで昼食を済ましでジムに戻ると、ジムの扉の前に少年が立っていました。
「やあ。ジムにご用かな?」
急に話しかけたからか少年はビクッとしてこちらを振り向きました。
そして、
「ここのジムリーダーに会いたい。ここのジムリーダーを倒せばシンザンリーグに出られる」
シンザンリーグというのは、インヨウ地方の北端にある『シンザンやま』で開催されるポケモンリーグのことです。
ポケモンリーグの予選出場の条件としてインヨウ地方のジムバッジを8個所持している必要があります。
つまり、彼は僕以外のジムリーダーには認められているということ。しかも、口ぶりからすれば全員を倒してきた…
「なるほど。じゃあ、入ってみようか」
「あんたも挑戦するのか?」
「いいや…」
扉を開き
「僕はこのジムのジムリーダーだよ」
うおー!やってみたかったやつ!!!
できた!!
「なるほど…あんたをねじ伏せればいいんだな」
「随分と奢った口を利くね。仮にもジムリーダー相手だよ?」
「ふん…関係ないな」
生意気な…
「少し聞いていいかな?どんな順番でこの地方を回った?」
「それを聞いてなにになる?」
「興味本位だよ。答えたくないならそれでいい」
「答える義理はない」
「確かにそうだ。じゃあ、始めようか」
僕はダイフクを、少年はキノガッサを繰り出す。
「さすがに予習はしているようだね。でも…」
キノガッサ!“マッハパンチ”!」
キノガッサの隠された長い手が、ジェット機がごとくダイフクに向かって発射される。
「“こおりのつぶて”」
0.1秒の世界。
ダイフクは自らの体表を覆う冷気のほんの一部を凝固させ、キノガッサの手に向かって寸分の狂いなく打ち出す。
こおりのつぶて”をぶつけられたキノガッサの拳はダイフクに届くことはなく勢いを失う。
「相殺…された…?」
「ダイフクの強さは卓越したそのスピードにある。この速さについてこれるかい?」
この時、平静を装いながらも僕らは驚いていた。
普通なら相殺どころではない。
軽くダメージを与えるつもりでの指示だ。
それが相殺で止まった。
この挑戦者さんは…
本物
キノガッサ!もう一度だ!」
「ダイフク!」
ダイフクは頷いた。
キノガッサからは絶えず“マッハパンチ”が飛んで来る。
それを全て相殺しながら縦横無尽にフィールド内を駆け回る。
そのうちに騒ぎを聞きつけたワシオくんが慌てて審判用の旗を持ってきた。
「“れいとうパンチ”!」
キノガッサの裏に回り込んだダイフクが全身の冷気をその拳に宿し振り上げる。一瞬の隙も見せないその特攻力は、我が手持ちながらに恐ろしいと思うほどだ。
「“カウンター”」
振り下ろされた拳をその身に喰らいながら、キノガッサは迎撃の用意をしていた。
冷凍パンチの反動を利用し、体重の乗り切った尻尾で強烈な“カウンター”。
ダイフクは地面に叩きつけられた。
マニューラ、戦闘不能!」
ワシオくんの右手が上がった。
挑戦者の一勝を意味する手だ。
「ふん、あの人の言う通りだな」
少年は小声で言ったつもりなのか、昂ぶった彼の声はしっかりと聞き取ることができた。
誰のことだ…
僕は倒れたダイフクをボールに戻す。
「ダイフクの“れいとうパンチ”を食らってなお立つか。よく育てられてるね」
しかし、僕は見逃さなかった“れいとうパンチ”を食らった瞬間、キノガッサから千切れた襷が落ちたことを。
「キンチャク!」
僕はズルズキンを繰り出した。
「“ねこだまし”」
キンチャクの得意技でもある“ねこだまし”。
キノガッサはあえなく戦闘不能になった。
ジムリーダーにはいくつか制限がかけられている。
一つは使用ポケモンの数。ジムバッジが0〜1個までのトレーナーと相対する時は2匹まで。
2〜3が3匹、4〜5が4匹、6〜7が5匹までだ。
アイテムの使用の制限。
ポケモンにアイテムを持たせることなく、傷薬等も1試合に2度までとされている。
そして、一方的な試合展開の禁止。
ジムリーダーはあくまでトレーナーの力を見極め道を示す者でなくてはならない。
だからこそ、相手の出方を見てから行動を決める。
今の段階で、互いに1匹ずつ戦闘不能になっている。先鋒のぶつかり合いから激しいバトルになった。
この状況下で気持ちが昂ぶってしまっている。自分を見失わずにこの熱とうまく共闘することがジムリーダーの難しいところだ。
「いけ!ムクホーク!」
「ダイフクがダウンしたタイミングで、ひこうタイプ…」
「“ブレイブバード”!」
「“ドレインパンチ”!」
一進一退の攻防。
キンチャクがムクホークを倒し、次のチャーレムに倒された。
どうやら相手さんは僕の手の内を知り尽くしているようだった。
パーティもそうだが、技構成までしっかり僕のポケモン達を意識した構成だ。
その後も1対1交換が続き、僕はついに追い詰められた。
「流石、バッジを7個集めただけはあるね。次が最後のポケモンだよ」
息も途切れ途切れになる。
それほどまでに僕は熱くなっていた。
「あんたのエースはバンギラスだって聞いてたんだが…」
ツキミが僕の隣からバトルフィールドに出る。
「どうやら違うようだな…」
「どこまで情報を持ってるんだ?それもまた誰かに聞いたのか?」
「ああ、師匠にウスキネに行くならしっかり準備しとけって言われたよ」
「師匠?」
「インヨウ地方チャンピオン、明石 龍成にな」
「なるほど…ならその強さも納得だ」
少し息を整える。
脳を酸素が駆け回る感覚。
「さて、僕はこの子で最後のポケモンになる。君は息の上がったハッサムともう一体。ここからが本番だよ」
言い終わると同時にツキミが走り出した。
ハッサム、“つるぎのまい”!」
ハッサムは集中する。
己が心の剣を研ぎ澄ますように。体内のエネルギーを力に変える。
「このまま決めるぞ!“バレットパンチ”連打」
ツキミに向かって加速するハッサム
しかし、1発目の“バレットパンチ”がツキミに届くことはなかった。
ハッサム、戦闘不能!」
ハッサム…?」
「ツキミの前で自分の攻撃力を上げるのは間違いだったね」
ツキミが自陣に戻る。
四肢に残るあくタイプ特有のエネルギーがその現実の全てを説明していた。
「“イカサマ”…か」
「勝負師ってのは自分の手の内を見せないものだよ」
「そりゃそうだ…いけ!オノノクス!」
挑戦者は最後のモンスターボールを投げた。
そして、現れたオノノクス
見るだけでわかる。このポケモンは強い。
佇まいから、視線から、その全てから緊張感が伝わる。
「やばいな、こりゃ…」
田舎地方のジム戦でこれほどの相手と当たることはまずない。
ツキミも苦笑いだ。
だけど、僕らは最高に高揚していた。
知らないトレーナーとのバトルでこんなにも高揚したのはいつ以来だったか。
「行くよ。ツキミ」
ツキミは小さく頷く。
オノノクス!“げきりん”!」
オノノクスの“げきりん”がツキミを襲います。
間一髪でかわすツキミ。
しかし、オノノクスは攻撃の手を緩めません。
深い興奮状態に入ったオノノクスの攻撃は、一撃一撃がとてつもないパワーを持ちます。
それをツキミが躱すもんだから、次第に砂埃で視界が遮られてしまいました。
視覚の届かないバトルのなか、衝撃音だけが僕らに戦況を伝えます。
そして…
突如音が止みました。
止んで間も無く、砂煙が晴れていきます。
向かい合う2匹は未だ睨み合う。
頬を流れる汗が、僕らを現実に戻します。
決着がついた…
オノノクスは張り詰めた糸を切らすかのように意識を失い、倒れした。
オノノクス、戦闘不能!」
ワシオくんは左手を振り上げ叫んだ。
「勝者、ジムリーダーヨヅキ!」
オノノクス!」
挑戦者さんは一目散にオノノクスへ駆け寄ります。
「イカサマのあと…いったいいつ…」
×××
「行くよ。ツキミ」
ツキミは小さく頷く。
×××
「あの時…ふふ、流石ってことか」
気づいたようです。
そう。あの瞬間、僕は指示という指示はしませんでした。
僕とツキミの付き合いがあるからこそなせる技です。
「お疲れ様オノノクス
いい子だ。
悔しさに拳を震わせながら、なによりも労りを忘れない。
そんな彼を見ているとジムリーダーになって本当に良かったと思います。
「はい、ナイトバッジだ」
挑戦者さんはきょとんとしています。
「なんで?」
「バッジの授与基準は勝敗だけじゃないからね」
そう。バッジの授与基準はそのバトルの中身。
ジムリーダーの称号を持つ者が「トレーナー」として認めた相手に渡せるのです。
「いいバトルだった」
握手の催促に彼も応じてくれました。
ものすごく渋った顔をしていますがね。
「これはもらうが、次会う時は絶対に負けないからな」
「ああ、いつでも待ってるよ」
熱いバトルはいつも素晴らしいプレゼントをくれます。
友人とライバルが一気に手に入るんです。
こうして僕もまた成長していく。
ジム戦のすごいところです。
「あ、そうだ」
ジムを後にしようとする彼が振り向きざまに声をかけてきました。
「あの人から伝言だ。次の龍神祭、必ず参加しろ。幸いジムリーダー集会は明日だろ?だとさ」
「チャンピオンがそう言ってたの?…」
「ああ、俺も参加する。そこでリベンジだ!」
そう言い残して彼は去って行きました。
明石龍成…
「ヨヅキさん…」
「ごめんなワシオくん、ちょっと一人にしてもろてええかな?」
「はい…」
これは僕にとって一大事件。
あの男からの挑戦状。
「どういうつもりや」
ツキミの表情もいつもより強張る。
今も過去もあの男をずっと追いかけてきた。
僕らは目先のことに囚われた。
ここから全てが始まるとも知らずに…

ED「メランコリニスタ」
YUKI

ジムリーダーの日常 第5話 「ハッピーバレンタイン」

それは3ヶ月前のお話。

そう。
バレンタイン。
「ヨヅキさん。どうぞ」
コトメちゃんがチョコをくれました。
「いやぁ、毎年ありがとね」
「いえ、恒例ですしお世話になっているので」
それでも嬉しいのが独り身の真理です。
「はい。ツキミも」
ツキミも大喜びです。
そんなこんなでコトメちゃんはジム内のポケモン達にチョコを配り始めます。
「女の子って大変だねぇ」
「男も大変ですよ…」
ワシオくんがいつもより遅れて出勤してきました。
「あれ?ワシオくん今日は遅かったね?」
「あのチョコの試作品を片っ端から味見させられて体調が優れないんです…その上、俺の分までしっかり作ってるから」
「あはははは、コトメちゃんらしいね」
ワシオくんはコトメちゃんと同棲して居ます。
つまりそういう関係です。
くそ!リア充め!!!

 

OP「絵画教室」

ASIAN KUNG-FU GENERATION

 

午前中の業務が終わり昼休憩です。
「いらっしゃい!おー!兄ちゃんじゃねぇか!」
御飯処『トキマサ』。
毎度のごとく大将の元気な声が響きます。
「こんにちは。いつもので」
「あいよ!」
この店には僕のお気に入りの場所があります。
それは入って3番目のカウンター席。
決して広いとは言えない店内で、この席に座ると、食事中の殆どの人の会話が聞こえてくるのです。
いい話もよくない話も。
これは僕にとってとても重要な事なのです。
「日替わりC定食おまち」
女将さんが持ってきてくれました。
女将さんはホールを担当して居ます。
「ありがとうございます。今日も賑わってますね」
「誰かさんが来てからこの町はうんと平和になったからね」
いたずらに笑う女将さん。
少し照れます…
「あれ?今日はデザートあるんですか?」
いつものお盆にいつもとは違う小包が一つ。
こじんまりと主張していました。
話を逸らすこともできて一石二鳥!
「今日はバレンタインだろ?ヨヅキちゃんが来ると思って用意しといたんだよ」
なんと…女将さん…
女神様…
「ありがとうございます!」
「それじゃ、ごゆっくり」
女将さんは軽く会釈をして奥へ戻ります。
ああ、なんか今とても幸せな気持ちになったなぁ。
なんて思ってると、ものすごく至近距離からものすごい視線を感じます。
「やらんぞ」
「当たり前でしょう…」
大将の嫉妬でした。
「そりゃそうか!俺なんて昨日その100倍は母ちゃんにもらったからな!」
自慢げに話す大将。
これは…ワシオくんパターンだ…
この店での食事はいつも平和です。
大将のつくる料理はどれも美味しいし、世間話なんかで盛り上がることもできて、女将さんが美人。
あっという間に時間が過ぎ、あっという間にご飯がなくなってしまいます。
「ごちそうさまでしたー」
「おう!またよろしくな!」
お会計を済まして店を出ます。
この引き戸の音がまた心地いい。
などと思って居るとアンコロが包みを咥えて飛んで来ました。
「おや、今日は手紙じゃないんだね」
包みにはメモ用紙が挟んでありました。
『義理!』
「マヒルだな…こうも義理を推されると嬉しさ半減だよね」
アンコロは「?」という様子。
「ありがとね」
とポケ豆を渡すと「わかってんじゃねぇか」とでもいうようにポケ豆を頬張り、飛んでいきました。
そんなこんなして居るとそろそろ昼休憩も終わりの時間です。
ジムに戻ると来客がありました。
「ヨヅキちゃん!もー、待ってたんだよ?」
イナリのばっちゃんです。
「こんにちは。どうされたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ!今日はバレンタインだろ!?」
いつになくテンションが高い…
これは嫌な予感がするぞ…
「あんたのために縁談の話を持って来たのよ!」
予想通り…
てか、バレンタイン関係ない…
「いや、その件に関しては…」
「今日という今日は逃さないよ!ちゃんと写真も持って来たんだ!」
ああ…逃げられない…
ここはとにかく話を逸らさねば…
「ワシオくー」
声をかけようとすると、彼は露骨に目をそらしやがりました。
こうなれば…
「コトメちゃー」
「あら、美人な方ですね」
お前もそっちの味方カァァァ!!!
「いいでしょ!?ヨヅキちゃんにぴったりだと思って!」
ぴったりだと思ってじゃないよ!
僕はちゃんと恋愛したいんだよ!!
という心の声は虚しく消えて、この後3時間売り込まれました。
とほほ…
なんとかイナリのばっちゃんを躱すと、コトメちゃんが声をかけて来ました。
「ほんと、そろそろ考えてくださいね。いい歳なんだから」
「そういうのは本人に言っちゃダメなんだよ?デリケートな話題なんだから」
「ほら、第一候補がお見えですよ?」
そう言って指を指すコトメちゃん。
その先には見るに麗しい女性が立っていました。
「あれ?なんで?」
マヒルちゃんでした。
彼女はズカズカと僕に近づいて、目の前に謎の大袋を叩きつけました。
「こ、これは…?」
「お兄が貰ってたチョコ。消化しきれないから食べて」
袋を開けると大量のチョコ、チョコ!チョコ!
「はぁ!?」
「お兄は今ジム戦だから私が代わりに持ってきた」
このむすっとした感じから察するに今戦ってる挑戦者も女の子なんだな…
「だからって…僕でもこの量を消費できるわけないだろ…」
「毎年コトメちゃんからの義理チョコしか貰えないんだから感謝しなさい」
「は!?違うし!他にももらえるし!」
「行きつけの店の女将さん?」
ぐ…
「イナリのおばあさま?町の人からの『義理』でしょ?」
ぐぬぬ
「とにかく、これ置いてくから食べてね」
そう言って去ろうとするマヒルちゃん。
「またんかーい!!!!!」
待ってくれませんでした。
と、先ほど僕を裏切ったワシオくんがニヤニヤしながら近づいてきました。
「お、今年もいっぱいもらえましたね!さっすがジムリーダー!」
「お前…よーそんなこと言えたな…」
「え?ジョウト弁?」
「さっき裏切ったやろ?」
「や!そんなつもりは…」
僕の中で積もり積もった何かがはちきれる音がしました。
「やべっ…」
ワシオくんは全力疾走。
「またんかコラ!!!!」
それを追うため僕も全力疾走。
「はぁ、毎年このくだりやって何が楽しいのやら…」
とため息をつくコトメちゃん。
それに同調するツキミ達。
僕だって楽しいわけじゃないんだよぉ!!!!
バレンタイン楽しみたい…

 

ED「メランコリニスタ」

YUKI

ジムリーダーの日常 第4話「日向の兄妹」

雲ひとつない晴天。

春の暖かさ。
近所の子供達が遊ぶ声。
「ふぁあ…」
ツキミもあくびをしながらマットの上へ。
のどかな町の小さな休息。
重力に任せ、閉じ行く瞼。
あぁ、この時がいつまでも続けばこんなにも幸せな日はないのに…
「ヨヅキ!!」
ふぁ?
うつらうつら目を開くと、そこにはこの世の者とは思えぬ美少女が…
「この…くそジムリーダー!!!」

 

OP「絵画教室」
ASIAN KUNG-FU GENERATION

 

寝ぼけ頭に刺さるこの罵声。
そう。以前名前だけ出てました。
ホコドメジムジムリーダーのマヒルちゃんです。
彼女は同期のジムリーダーです。
同期といっても年齢は僕の方が3つ上なのですが…
「あら、『闘拳の姫君』様じゃございませんか」
『闘拳の姫君』とは、マヒルちゃんの持つ2つ名で本人は痛く不服なのだそうです。
案の定ムスッとしてます。
「あんた!今日はお兄のジムでお兄と模擬戦するって言ってたんじゃないの!?」
お兄と呼ばれてるのはサイヒシティのジムリーダー・アサヒくん。
ちなみにこの二人は正真正銘の兄妹なのです。そしてそして、アサヒくんもぼくと同期のジムリーダーです。
「ああ、それなら1週間前にお兄様より中止とお聞きしましたが?」
「え、聞いてない…」
突然寂しそうな表情のマヒルちゃん。
ええ。ええ。そうです。
彼女はとてつもないブラコンなのです。
絶世の美女とも呼ばれる『闘拳の姫君』も眉目秀麗な兄の前ではただの女の子なのです。
「なんか言った?」
おっと…地獄耳…
彼女は「ブラコン」と呼ばれるのを嫌っています。
「何もないですよ。それにしても、なぜお兄様に聞かなかったの?」
「だって…お兄ジムにいないんだもん」
「それではるばるウスキネまで?」
ホコドメシティはサイヒシティのすぐそばにあり、ウスキネとは真逆に位置します。
「だって、あんたならお兄と仲良いし…」
この子に恋人がいないのはきっと兄のせいなのでしょう。
「んーじゃあ、とりあえずお茶でも飲む?」
「お兄は?」
「それはウスキネ探偵のこのヨヅキにお任せあれ!」

-所変わって-
インヨウ地方サイヒシティから少し離れた海岸。
名は『明るみの海岸』
その名の通り日当たりが良く、静かなこの場所はエスパータイプのエキスパートであるアサヒくんの精神統一の場でもあります。
「どうかしたか?」
アサヒくんの相棒・ヒマワリ(エーフィ♀)のセンサーに何かが引っかかったようです。
ヒマワリの尻尾がピクピク揺れてます。
「コソコソしなくていい。敵意がないのもわかっている」
言葉を理解しているのかしていないのかは定かではありませんが、彼の目の前にラティアスが姿を表しました。
「なんだ、君だったか。どうしたんだい?」
ラティアスはアサヒに一通の手紙を渡しました。
「ん?ヨヅキからじゃないか」
手紙にはこう書かれています。

親愛なる同期ジムリーダーのアサヒくん
どうぞ、貴方の妹を連れて帰ってください。
何卒よろしくお願いします。

「ヒマワリ、修行は一時中断だ」
ヒマワリは全てを察したように立ち上がり、アサヒに着いて行きます。
そして、彼がスーパーボールを取り出したげた瞬間、瞬く間に2人の姿は消えてしまいました。

-戻ってウスキネジム-
ジムにどえらい音量で罵声が響きます。
「何考えてんのよ!!この変態!!」
振りかぶった平手は、ぼくの頬に向かって美し過ぎるほどの軌道を描いた…
えっと、彼女が何にキレてるかと言いますと
アサヒへの手紙を書き終わって、お茶を入れてきた時間までさかのぼります。

×××

「なんであんたとお茶なんて飲まないといけないのよ!?」
2人分のお茶を入れた後に言うなよ…
「他にすることないから。それに、下手に話してると殴られるから」
「くっ…ナックル!インファイト!」
ナックルとは彼女の相棒であるルカリオのことです。
ナックルは指示を受けるなり、戦闘態勢をとり、一目散に僕目掛けて走ってきます。
その瞬間、僕の後ろから二つの足音。
そして目にも留まらぬ速さで2手に分かれ、
ねこだまし
怯んだナックルは運足を乱しバランスを崩す…
まるでそうなることを予測していたようにもう一つの影が上空から拳を振り上げます。
「そこまで!」
ぼくの号令で動きが止まる。
そこには、ナックルに馬乗りで拳を振り上げているキンチャク(ズルズキン)と、次の攻撃の準備を済ませたダイフク(マニューラ)の姿がありました。
「いいコンビネーションだったよ。2人とも」
キンチャクとダイフクは「えへへー」と言わんばかりの照れ方。
「あんたたち!ナックルに何すんのよ!?」
マヒルがナックルに駆け寄ります。
起き上がるナックルに臨戦態勢を崩さないキンチャクとダイフク
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ?」
「だからって1対2なんて卑怯じゃない!」
「はぁ!?いきなりインファイトの指示しといて何言ってんだよ!」
「それはあんたが私をナンパするから!」
「なっ…ナンパなんてしてないだろ!」
「お茶にはそうなんてナンパ以外のなにものでもないじゃない!!」
「誘ったんじゃなくて提案したんだよ!」
ヒートアップする僕とマヒルに冷たい視線を送り始めるポケモンたち。
「そもそも、僕は君みたいな女の子は好みじゃないんだよ!」
「なんですって!?」
「いいか!?確かに君は可愛いさ!でもな、この世の正義はちっぱいにこそあるんだよ!!」
「はぁ!?」
「ちっぱくもない美少女に興味なんてないって言ってるんだ!」
シーンとするジム内。
先程まで2人に対して向けられていたはずの視線はいつのまにか僕に集中していました。
あれ…?
「何考えてんのよ!この変態!!」
バシッ!
平手打ちの音がジムをこだまする。
ちょうどその時、ジムの扉が開きました。
「マヒル!」
「お兄!」
お兄様ご到着。
妹がライバルに平手打ちしている現場を目の当たりにする兄。
そして軽やかにぼくをスルー。
「マヒル、大丈夫か?すごい音したぞ?」
ん?
「うん、大丈夫。お兄が来てくれたから」
んん?
「お前がピンチなんじゃないかと思って、テレポートして来た。どこか痛むか?」
手紙の主を無視して妹を心配する兄。
殴られたのこっちなんですけど?
「ちょっとだけ…でも大丈夫」
何故かはにかむ妹。
そりゃそうでしょうね!あれだけ本気で平手打ちすりゃ手にもダメージ行きますよね!?
「あのー、お二人さん?」
ここでようやくぼくに気づいたお兄さん。
「ああ、ヨヅキか。さっきの手紙なんなんだ?」
くっそぅ…なんかもう勝てない気しかしない…
「あ、うん。なんでもいいからその娘連れて帰ってくれない?」
「ヨヅキ。いくらなんでもそれは酷いだろ?マヒルは女の子なんだ」
当の本人は兄の影からあっかんべー。
ヒマワリとナックルは百合モード展開中。
ああ、ほんと。なんでもいいから帰ってくれ…
「はいはい。ぼくが悪うござんした。だから、早く連れて帰ってください。お願いします」
「マヒル。立てるかい?」
立ってるけどね?
「うん。ありがとう…じゃあね、変態ジムリーダー」
そう言い捨てて2人はジムを後にしました。
あああぁぁぁぁぁ!もう!!なんだったんだ!!
本当に何故あそこまでぼくが責められないといけないのか!
いまだに謎です。
まあ、兎にも角にもこれで静かな休息の時間が…
と思った瞬間から「ガチャン!」と勢いよく扉が開く音がしました。
そしてそこには先程の美少女が。
「ヨヅキ助けて!!」
は?
と思いながらジムの外に出てみると…
今までこのジムで体験したことのないほどの黄色い声援。
もちろんその声援達は、ぼくを訪ねて来たわけではありません。
『光耀の王子』の2つ名を持つアサヒくんに向けられたものです。
どこから湧いて来たのか、アサヒファンの女性たち。
その真ん中でヘタリ込むアサヒ。
そう。彼は極度の女性恐怖症なのです。
「あ、あ…お、女の…人…ヨヅキ…助けてくれ…」
もう勝手にしてくれぇぇぇぇえええええ!!!!!

 

ED「メランコリニスタ」
YUKI

ジムリーダーの日常〜キャラ紹介〜

TN:アサヒ

男性/25歳/6月16日生まれ/シンオウ地方ナギサシティ出身/インヨウ地方サイヒジム・ジムリーダー/エキスパートタイプ:エスパー/二つ名:光耀の王子

眉目秀麗、知略縦横、一騎当千
『完璧』を絵に描いたようなジムリーダー。
一つ一つの仕草に黄色い声援が飛び周りの男性陣からは妬まれるが、本人は女性恐怖症を患っている。
かくとうタイプのジムリーダー、マヒルとは血の繋がった兄妹。
唯一アサヒが正気を保っていられる女性が妹である。
ヨヅキとは同期のライバルで、親友でもある。
また、副業はしておらずインヨウ地方のジムリーダー長を務める。


手持ちポケモン
ヒマワリ-エーフィ

ジムリーダーの日常〜キャラ紹介〜

TN:ヨヅキ

男性/25歳/1月15日生まれ/ジョウト地方コガネシティ出身/インヨウ地方ウスキネジム・ジムリーダー/エキスパートタイプ:あく/二つ名:日陰の英雄

温厚で明るい性格で、“あくタイプ”のエキスパートとは思えないほど無邪気な表情をする。
しかし、普段は絶対に見せない冷たく燃える心を持つ。
ジムリーダーとしては、町の人々からの信頼が厚く実力もない申し分ない。
師と仰ぐジョウト地方の四天王・カリンとは姉弟のような関係で今もなお続いている。
ジムリーダーのほかに、暗峠にある暗がり神社の神主も務める。

手持ちポケモン
ツキミ-ブラッキー
ヨモギ-バンギラス
キンチャク-ズルズキン
ダイフク-マニューラ
マルコ-バルジーナ
オハギ-ヤミラミ
ヘギオ-キリキザン
ゼンザイ-スカタンク
クズコ-カラマネロ
シンゲン-サメハダー

ジムリーダーの日常 第3話「悪魔と呼ばれた生」

「よくやるなぁ…ね?チロル」
「ウィャー」とチロルも返します。
チロルというのはコトメちゃんのレパルダスのことです。
ジムリーダーやジムトレーナーといえど、日々の修行は欠かせません。
「はい!いっち!にー!いっち!にー!」
「いっち!にー!いっち!にー!」
ジムでは今、ワシオくん考案のハッスル修行を行なっています。
もちろん、ポケモン達も一生懸命ハッスルします。
ちなみにワシオくんのマトマ(ワルビアル)はとてつもなくキレキレです。
「ほら!ヨヅキさん!もっとマトマのように!!いっち!にー!いっち!にー!」
「いっち、にー!いっち、にー!」
「ヨヅキさん。私神社行ってます」
「え、あ、ありがとう。いつも悪いね」
コトメちゃんを見送るぼく。
「ヨヅキさん!何休んでるんですか!ほら!いっち!にー!いっち!にー!」
「は、はい!いっち、にー、いっ…ち…にー」
もうみんなヘトヘトです。
見た目以上に体力使うのがこの修行…
え?絵がないからわからないって?それはみなさんの想像力でカバーしてください。
ちなみに、コトメちゃんはハッスル修行をしたことがありません。
前に、何故やらないか聞いてみたのですが「あんなクソダサい振り付けのエクササイズをすると親が泣く」のだそうです…
「まだまだいきますよ!はい!いっち!にー!いっち!にー!」

OP「絵画教室」
ASIAN KUNG-FU GENERATION

-暗がり神社-
ジムリーダーの中には、その合間を縫って副業をしている人たちがいます。
実は、ぼくもその一人。
ぼくはウスキネジムの裏にある神社で神主さんをやっています。
「あ、ヨヅキさん。あの変態エクササイズはもういいんですか?」
「変態って…今日のところは一旦終了だって」
「そうですか。じゃあ、私はジムに戻ります」
「ありがとね。こっちまで手伝ってもらっちゃって」
「いえいえ。私が好きで手伝ってるだけですから」
「そう言ってもらえると本当に助かるよ」
コトメちゃんは神社の仕事も手伝ってくれています。
最近はコトメちゃんの巫女姿目当てでくるお客さんもちらほら…
しかし、その真意は『ハッスル修行』をやらないための口実だということをぼくは知っています。
この神社は普通の神社と違って悪魔を祀っています。
だからお客さんもほとんど来ないし、神を祀った神社さんとは交流がありません。
つまり、仕事という仕事がないのです。
「さて、お茶でもしようか。ね?ツキミ」
ツキミは「待ってました!」と言わんばかりのはしゃぎっぷり。
ジムリーダーといえど、休息は必要です。
副業を行なっているときは基本『非番』という扱いになり、ジム戦以外の公務はジムトレーナーに任せることになっています。
逆を言うと、『ジム戦』を申し込まれると嫌が応にも公務を施行しなくてはなりません。
急を要する場合やその他公務中の場合はジムリーダー代理を立てるか、挑戦者さんとの交渉になります。
さて、お茶をしているだけのシーンでは絵にならないので、暗がり神社についてももう少しお話ししておきましょう。
インヨウ地方には2つの大きな社があります。
サイヒシティにある『明るみ大社』とウスキネタウンにある『暗がり神社』です。
明るみ大社は別名『海神の砦』とも呼ばれ、かつて『ルギア』が生息していたとされる場所です。
インヨウ地方では二つの伝説があり、その片方が『ルギア』にまつわる伝説だと伝えられています。
そして、もう一つが『陰の悪魔』とも呼ばれる『イベルタル』の伝説。
その伝説では、世界を破壊し尽くしたイベルタルが眠りについた場所としてこの『暗がり神社』が出てきます。
元々は何を祀っていたのか、誰が建て、いつ出来たのかすら不明のこの神社には、本堂の奥に開かずの扉があります。
人はそこにイベルタルが眠っていると言います。
それがただの噂なのか真実なのか、それは誰も知りません。
「ヨヅキさん!」
そうこうしているとコトメちゃんが呼びにきました。
「やっぱりここにいたんですね」
「まあね」
「見つけにくいからもっとわかりやすいところにいて欲しいんですけど」
「でも、見つけれてるでしょ?」
「5年もあなたのそばにいればこそですよ。なんでここなんですか?」
「わからない。でも、好きなんだよ」
「私には理解できませんね。なんか生ぬるい気がするし、禍々しい気もするし。とにかく、ジムに戻ってください挑戦者の方がいらしてます」
「ああ。ありがと」
ここは暗がり神社。
悪魔を祀る神社。
悪魔とはなんなのか?
あくとは何か?
僕の最大の疑問で、最大の壁です。

-翌朝-

「ヨヅキさん!!コトメ!!二人も動く!!ほら!いっち!にー!いっち!にー!」
ワシオくんは今日もハッスル修行に明け暮れます。
「2日連続はきつい…」
「勝ちが続いてるからといって胡座かいてちゃだめですよ!」
「わたし、神社行ってきますね」
そういうとコトメちゃんは早足でジムを出て行きます
「あ!ずるい!!ぼくも…」
「ヨヅキさんは逃がしませんよー!いっち!にー!いっち!にー!」

ED「メランコリニスタ」
YUKI